⑦交通事故について(吹田東高校での授業)

(平成26年11月6日吹田東高校にて)

 

1. 今日は交通事故についての話をさせて頂きます。私が、大阪府下の高校で授業をするのは、今回が4回目で、今までは少年事件とか裁判員裁判の話をしてきました。交通事故は今回が初めてです。皆さんが交通事故というテーマを選ばれたのは、おそらく、交通事故というのが、自分もしくは自分の家族が遭遇する法律問題として最も身近なものと感じたからでしょう。 実際に、君たちのこれからの長い人生の中で、1度は交通事故にあう可能性は大きいと言えます。又、君たち自身が交通事故にあわなくても、君たちの家族まで含めれば、可能性は非常に大きくなります。従って交通事故にあったとき、どのような法律問題が生じるか、どのように対処したら良いのかを今から知っておくことは有益だと思います。

2. 話しはちょっと変りますが、私たちが日常生活の中で普段は法律など意識しないで生活しているわけですが、何かが起ったときに、法律問題になることがあります。法律問題とは、法律によって解決する問題、事件ということで、私の弁護士の経験で言えば、離婚、相続、借金、交通事故というのが、普通の人が経験しがちな4大事件と言えるのではないかと思います。この4つにランクをつけることはできないのですが、今日のテーマの交通事故がこの4大事件の中に入ることは確実です。(ちなみに、今日のテーマではないので、他の事件のことは詳しく述べることはできないのですが、離婚というのは、離婚自体が争いになるというだけでなく、離婚に伴う、子供の親権者の問題とか、慰謝料、財産分与などもめることが多く、当事者で話しがつかなくて、調停や裁判になることが多いのです。相続というのは、人が死んでその遺産を相続人の間でどのように分けるかという問題です。これももめて話しがつかなければ、調停や審判ということになります。借金問題というのは、お金を借りて返せない状態が生じるということです。この場合、全く返せなければ、破産申立という方法をとりますし、少しずつだったら返せるということだったら、再生とか任意整理という方法をとることもできます。)交通事故だけでなく、この4つに広げれば、君たちも今後どれかの法律問題に関わる確率というのは非常に高いでしょう。

3. 話しを戻して、交通事故の話しをしますが、交通事故をめぐる法律問題を考える際、便宜的に加害者の立場と被害者の立場に分けて考えてみます。
 しかし、交通事故の場合、単純にどちらが加害者でどちらが被害者なのか、わからない場合もあります。例えば車同士の事故の場合、どちらが悪いのか(つまり過失が大きいのか)によって加害者、被害者を分けることもできますし、どちらが怪我をしたかによって、怪我をした方を被害者とすることもできます。双方怪我をしていれば、どちらも加害者でもあり被害者でもあるという両面を持つこともあります。交通事故の場合、そういうややこしい問題があるのですが、ここでは車が人をひいて怪我をさせたというような単純な場合を想定して、車の運転手を加害者、歩行中で車にひかれ怪我をした人を被害者と考えて話しをしていきます。

(1) 加害者の法的責任
  この場合、車を運転していた加害者は、3つの法的責任を負うことになります。

 まず刑事責任ですが、これは警察や検察庁での取調べを受けて、裁判になり、罰金や懲役(禁固)になることがあるということです。被害者の怪我の程度や、事故態様(加害者の過失が大きいか否か等)によって、加害者が刑事責任を負うことがあります。近時、交通事故の加害者の刑事責任が重くなる傾向があります。皆さんも新聞を見て気付いた方もいるでしょうが、登校中の児童の列に突っ込んで多数の者を死傷させた事件を契機にして、従来の法律が改正もしくは新しい法律が出来、従来より重く処罰されることができるようになりました。特に、酒を飲んだり、薬物を使用して運転して交通事故を起こして相手を死なせてしまった場合などに、長期間刑務所に行かなければならないことがあります。

 次に民事責任ですが、被害者に対し、損害賠償をしなければならないという義務=責任が生じます。どのような範囲の損害を弁償しなければならないかは、あとで被害者の立場から述べるときにふれますが、交通事故によって生じた相手方の物的損害、人的損害双方に対し、その損害を弁償しなければならないという民事責任を負うことになります。この民事責任は通常、車にかけている保険によってまかなわれることが多く、この保険については、後にまた述べることにします。

 最後に行政上の責任ですが、これは免許が取消されたり、停止したりする行政上の処分のことを指します。交通事故だけでなく、スピード違反などの交通違反を犯し、違反点数が一定の基準に達すると免許が取消されたり、停止することがあります。取消と停止の違いは、文字通り、取消は免許が取消されて、一定期間を経た後、又車を運転するためには免許を取り直さなければならなくなります。停止は一定期間免許が停止するだけで、その期間が過ぎれば免許は復活します。取消の方が停止より重い処分で、単なる交通違反ではなく交通事故を起すと、一発で免許が取消されることがあります。

(2) 被害者が請求できるもの
 交通事故の被害者(亡くなった場合は、その遺族)は、加害者に対し、自らの負った損害の賠償(弁償)を請求できます。
 請求できる損害には2種類あり、1つは物的損害(物損)であり、1つは人的損害です。

 物損とは、例えば自転車に乗っていて事故にあい、その自転車がこわれてしまったというような場合です。その修理費用、全損ならその物の価値が損害になります。修理費用とその物の価値を比較して、低い方が損害として認められることになります。例えば、修理費用として1万円かかるが、その自転車の価値(15,000円で買ったものが、3年乗って現在の価値)が6000円しかない場合は、6,000円が損害になるというわけです。
 物損の中には事故でこわれてしまった携行品(バッグとか腕時計とか)や着ていた服なども入ります。

 人的損害とは、事故で怪我をしたことにより、かかった治療費とか、病院に通うための交通費とか、仕事ができなかったことにより収入が減ったとか(休業補償といいます)、傷害を負ったことにより精神的苦痛を被ったということで慰謝料などです。その他に後遺障害が残ればその分の慰謝料等も請求できます。
 君たちのような高校生の場合、交通事故で学校を休むことになっても、その分の休業補償というのはありません。学校へ行くことで収入を得ていたわけではなく、休んだからと言って収入が減ったわけではないからです。

被害者がこれらの請求をする際、請求する相手は加害者ということになりますが、実際には加害者の入っている保険(正確に言うと、加害者の運転する車にかけている保険)会社と交渉することになります。この保険については又後で話しをすることにします。

4. 具体的なケースで考えてみましょう。
 例としてあげたのは「20歳になった大学生(男子・甲)が、成人になったお祝いに親からお金を出してもらい、運転免許をとった上で、車を買って貰い、運転を始めた1ヶ月後に、信号のある交差点で右折する際、横断歩道を走行中の女性(43歳・乙)をひいてしまった。」というケースです。
 甲が加害者、乙が被害者という設定で、甲を「20歳になった大学生」としたのは、君たちに近い年令ということでしたものです。車の普通免許をとれるのは18歳からですから、18歳でも19歳でもよかったのですが、未成年だと又、色々なややこしい問題が生じるので成人としたわけです。
 最近では大学生の時に車の免許をとる人が多いようですが、ちなみに車の免許をとるのにどの位お金がかかるか知っていますか。学割とか、合宿とかで安くすむ方法もあるようですが、普通教習所へ行く方法で30万円位かかります。アルバイトをして自分で出してもよい訳ですが、普通は親が出してくれるだろうということでそういう話しにしました。免許をとってから乗る車ですが、親の車に乗ってもいいのですが、ここでは親に買ってもらった車ということにしました。金持ちで気前のいいというか、そういう親もいるだろうということでそういう設定にしました。
 1ヶ月後の事故ということですが、免許とりたてのころというのは、慎重になる半面、1ヶ月位たつと多少なれて注意が散漫になることもあって、そういう設定にしました。
 事故態様ですが、「信号のある交差点で右折する際、横断歩道を歩行中の女性をひいてしまった」というのは、図示すると次のようになります。信号はもちろん青で、車が見る信号には右折OKの指示はないとします。つまり対向車が来ないのを見て、自分の判断で右折してよいのですが、この時、対向車ばかり気をつけて、左右から来る歩行者や自転車(特に右から来る者や自転車)に注意を払わなかったために歩行者にぶつけてしまったというケースです。
 そういう状況であることを頭に入れて、設問を考えます。

(1) 甲の運転する車が乙にあたり、乙が倒れたとします。そのあと甲はどうしたら良いでしょうか。この辺のことは常識としてみなさんも知っていると思いますが、突然のことでビックリして、あたりを見回して人がいないのを確認して逃げるというのが最悪で、そういうことをしてはいけません。車を停め、降りて乙の安否を確認し、倒れている場所が危険な場所だったら、安全な場所に移すことをしなければなりません。これを救護義務と言います。その上で、119番して救急車を呼んだり、110番して警察に通報したりします。この警察への通報を怠ると通報義務違反ということになり、刑事責任が重くなります。
 警察官が現場に来ると、事故状況について話しを聞かれ、実況見分ということを現場で行います。被害者の人も怪我が軽ければ立会いますが、説例の場合は、救急車で病院で運ばれ事故直後の実況見分には甲のみの立会いということにしましょう。
 甲は、そのようなことが済んだあと、事故のことを保険会社に連絡しておいた方が良いでしょう。

(2) 設問(2)に移りますが、乙が病室に運ばれ、診断を受けた結果、全治2カ月の傷害を負ったとしましょう。この場合の甲の刑事責任はどうなるでしょうか。全治2カ月というのは相当重い部類に入ります。甲の刑事責任は免れないでしょう。つまり、事故当日だけでなく、後日も警察に呼ばれ、何回か事情聴取を受け、調書が作成され、最終的には検察庁に呼ばれ、検察官の取調を受けて、起訴されるということになります。罪名は、過失運転致傷罪(自動車運転処罰法5条)ということで、法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁固か、または100万円以下の罰金となっています。ちなみにこの法律は、平成19年に刑法の中に新設された後今年の5月から 別法として施行されているものです。
 又、この法律の中には、自動車事故のうちでも、特にその内容が悪質なもの、例えば飲酒や薬物使用して運転して事故を起した場合には、危険運転致死傷罪が適用され、最大20年の懲役に行かねばならないことがあります。

(3) 設問(3)に移りますが、まずこの事故の場合の甲、乙の過失割合を考えてみましょう。過失というのは、簡単に言うと落ち度ということで、事故の発生につき落ち度があったかどうかということです。この場合、甲は、対向車だけではなく、横断歩道を渡る歩行者や自転車がないかどうか左右を確認の上、右折しなければなりませんから、その確認を怠ったという意味で、甲に大きな過失があることは間違いありません。問題は、乙の過失ですが、乙は青で渡っているとはいえ、右折や左折してくる車がないかどうか注意して、渡っていれば、事故を防げたかもしれません。その意味で、乙にも多少の過失はあったのではないかと考える余地はあるのですが、乙が歩行者ということを考慮して、この場合乙の過失は0となるのです。
 乙が歩行者ということを考慮してこのようになるのですが、それでは、乙が自転車に乗って同じような事故に会った場合はどうでしょうか。自転車は、道交法上車と扱われます。従って、この場合歩行者と同視されず、10%程度の過失が認定されるのが普通です。乙がバイクに乗っていたり、自動車を運転していて事故に会った場合も異なります。バイクや自動車の場合は、対向車線を青で直進してきて、右折する甲の車と衝突することになりますが、この場合は、バイクであれば85:15、自動車であれば80:20位が過失割合として普通です。つまり、考え方としては、過失の大きさを序列すると、
          人 < 自転車 < バイク < 自動車
          0    10    15    20
のようになるのです。加害者は被害者を選べるわけではありませんが、結果として事故を起してしまった相手方が歩行者か、車に乗っていた人か、車と言っても自転車かバイクか自動車かによって、自分の過失割合が大きくなる(責任が重くなる)ということになるのです。
 設問(3)では、民事責任で過失のことしか書いてませんが、先ほど説明しましたように民事責任としては、種々の賠償義務を負うことになります。乙を43歳女性としたのには、乙の職業によって、休業補償額などがかわることを述べようと思ったのですが、それは細かな計算を伴うものなので、省き、慰謝料についてだけふれます。全治2カ月の診断と言っても、実際には治療期間としてはもっとかかり、仮に入院1ヶ月、通院1年とすれば、慰謝料は200万円近くなります。そして後遺障害として、12級が認定されれば、それだけで慰謝料は280万円になります。

(4) 最後に設問(4)ですが、この事故で甲の運転免許がどうなるかです。先ほど説明した行政上の責任ということです。
 この事故で甲の減点が13点ということですから、これ以外に何も違反行為がなければ免許取消にはなりませんが、その他に交通違反があって合計で15点を超えれば取消しになります。13点のままだったら免許停止90日です。

5. そろそろ時間になってしまいましたので、ここで終えたいと思います。最初に言いましたように、交通事故というのは、今後君たちにとって加害者にも被害者にもなりうる身近な問題です。今回の話しを参考にして、今後交通事故に遭わないようにそして、遭った場合の対処の仕方に注意していって下さい。

 

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