山本一力の小説に見る職業理念(平成20年1月22日、大阪うつぼロータリークラブでの卓話)


1.はじめに

 

(1)ロータリーに入ったとき、一番理解しにくいのが職業奉仕という言葉でした。

社会奉仕もわかる、国際奉仕もわかる。しかし、職業奉仕というのは具体的にはどういうことを意味するのか、わかりにくいが故に、この理解がロータリーの理解につながるのだ、職業奉仕がロータリーの核心だと思うようになりました。

 

(2)職業奉仕の意味を考えるとき、ロータリーの基本思想は何かということから考える必要があると思います。

ロータリーの基本思想は何かというとき、これは人によって捉え方が違うと思いますが、私は次のように考えます。 1つは、市民社会に重きを置いているということです。人々の生きている社会というものを見るとき(又は、その軌跡としての歴史を見るとき)、大きく分けて 2つの見方があります。それは、政治から見るか、市民社会から見るかという 2つです。あるいは社会を良くしようと考えるとき、 2つの方向性があります。政治を変えることによって、社会をよくしようと考えるか、市民社会の中で変えようとするかです。ロータリーはこの 2つの見方、方向性の中で徹底して市民社会の側に立っていると思います。政治は排除しているというか、政治への関わりを全くしないという立場を貫いています。そしてその市民社会の中で最も重視しているのが、個々の人の職業活動なのです。職業奉仕というのは、言葉を換えて、簡単に言えば、「個々の人が自己の職業をまっとうすること」だと思います。そして、ロータリーの考えていることを、まとめれば「市民社会の中で各自が自己の職業をまっとうすることを通して社会を良くする(人々を幸せにする社会をつくる)」ということだと思います。「良くする」というよりは「良くなるんだ」という思想だと思います。

 

(3)ちょっと話はずれますが、そう考えると、ロータリーというのは、個々の職業実践活動が大事ということだったら、わざわざ組織や団体を作る必要はないんではないかという疑問が出てきます。これはロータリーの理解にかかわる本質的な問題です。私は、ロータリーという団体がなぜ必要かと言えば、それは、各種職業に携わるロータリアンの交流の場としてであり、社会奉仕をするためのものと考えます。基本はあくまでも職業奉仕であり、個々のロータリアンなのです。 

 

 

2.今何故山本一力なのか

 

(1)次に問題となるのは、「自己の職業をまっとうする」とは何かということです。具体的に、どのような理念に基づいて、どのような職業実践活動を行なえばよいのかということです。

ロータリーは、この職業活動につき、「適正な利潤を得ることは否定しない」という立場をとっています。奉仕という言葉から、「利益を度外視して」という誤解が生じがちなので、そういうことではないと説明するのです。適正な利潤を得て行う職業奉仕とは何か、ということを具体的に考えるとき、私がふと思い至ったのが山本一力の時代小説だったのです。

 

(2)山本一力の小説に最初にふれたのは、昨年の秋だったと思いますが、それ以来文庫になっているものは全部読みました。(別表で山本一力の時代小説で文庫本のものの一覧をつけておきます。)

直木賞をとった「あかね空」をはじめ、いずれも一気に読んでしまうという面白い本ですが、読んでいるうちに、ここに登場する主人公は、いずれも何らかの職業についており、その職業への姿勢に共通のものがあり、それがロータリーの職業奉仕の理念につながるのではないかと思ったのです。もちろん、山本一力の小説の舞台は江戸時代であり、歴史区分で言えば、封建時代であり、ロータリーが始まるまででも 100年以上の開きがあります。しかし時代背景は異なっても、普遍的なものは共通であるし、封建時代の江戸の下町の庶民の活動の中に、市民社会の萌芽を見ることは可能でしょう。

 

(3)それでは具体的に山本一力の小説の中味にふれながらお話しします。

ここでとりあげるのは、「蒼龍」というタイトルの文庫本の中の短編で「節分かれ」という小説です。

 

①「節分かれ」のストーリー

江戸深川にある酒問屋の三代目をその息子が回想する形で描いたもの。父親が残した短歌を見ながら、その歌を書いた頃の父親の思いがどんなものだったのか考えていくという筋書きです。

その中で、特に商売(職業)に対する父親の姿勢というものが、当時は理解できなかったことが、色々と分かってくると言うストーリーです。

 

②酒問屋を中心として酒の流通を簡単に説明すると、

ア.江戸の酒問屋は、地方にある蔵元から酒を仕入れる。例えば、この小説の主人公の営む酒問屋  は、灘の蔵元から酒を仕入れている。

 

イ.その蔵元は、その地方(例えば灘)で酒(銘柄)を作っているところから酒を集める。それを  酒問屋に送る。

 

ウ.酒問屋は、小売の酒屋に卸す。

 

エ.酒屋は客(料亭や個々の客)に酒を売る。

 

こういう流れです。こういう酒の流れを理解していただいた上で、小説の主人公が、商売上遭  遇した様々な問題に対してどう対処したかを見ていきましょう。

 

ア.まず最初に、蔵元から酒が入らなくなった時にどう対処したかですが、蔵元から酒が入らない状態とは、例えばその年は、酒米の出来が悪くて、いい酒が仕込めず、蔵元への酒が集まらなかった等の理由で酒問屋へ従来の蔵元から酒が入らなかった場合です。酒屋からは他の産地からの酒でもいいから仕入れて、卸してくれと催促してくるし、店を手伝う子供達からも、最近は会津の酒でも良いものがあるから、それらから仕入れることを勧める。しかし、この主人公は頑として、他からの仕入れはしないんですね。 3代続いた仕入先(取引先)とのつながりを重視して、そこが入れられなくなったからといって、容易に他に乗り換えるということはしない。他の酒でもいいという酒屋に対しては、他の酒問屋を紹介したりもする。このような主人公の姿勢で、いくつかの大きな酒屋は取引をやめて離れていくのですが、それでも主人公はそのような姿勢を貫く。

 

イ.次に、仕入先を信頼して待った甲斐があって、大量の酒が蔵元から入るようになるのですが、そのことでこの主人公は、今度は、酒屋に対して、卸値を下げるから、客にこの酒を安く売るように言うんですね。ところが、酒屋はそんなことをしたら、利益が下がるといってほとんどが反対する。主人公たちがいくら説得しても応じないので、最後の手段としてこの主人公たちは、自分たちで安く飲ませる店を出してしまう。

 

ウ.これが大当たりして、酒を飲ませる店は繁盛するのですが、すると、自分のところは酒問屋であって、本来こういう小売をするところではないとして、この店を他に譲って、さっと手を引くんですね。そして、他の酒屋などが、主人公の店が大当たりしたのを見て真似をして、酒を安く飲ませる店を始めるや、今度は値下げ競争をやめさせるため、自分のところは値下げしないことを宣言するのですね。それが 3つ目。

 

エ.最後に、幕府の政策で、旗本や御家人を救うために徳政令(借金の棒引き)みたいなものを出すなどして景気が悪くなったときに、それまでお金持が利用していた料亭などがダメになり、料亭などを主に取引にしていた酒屋が倒産するなどしていったときに、主人公の酒問屋は残るんですね。その時に初めて息子達が父親の商売の姿勢というものを見直すんですね。

 

以上が「節分かれ」の筋ですが、そのことからどのような職業理念が出てくるかというのがまとめです。

1つは、自分の提供する商品(この場合は酒ですが)に、自信と誇りを持っているということです。最も良いものを提供しているという考えがあって、だからこそ、その酒を入れてくれていた蔵元が少々ダメになっても、そこを見切らず、長い目で見て、その仕入先とのつながりを大事にする。その態度が結果的には、仕入先の信頼を更に深いものとし、つながりを深いものにしています。 

 

2つめは、良いものを出来るだけ安く提供しようという姿勢です。ここでは利潤を無視して安くするのではありません。仕入先の関係で安く仕入れられる条件を作り出した上で、(利潤を確保して)、安く提供することを考えるのです。ここでは仕入値が下がっても、売値は従来通りにして、利益を増やすという考えはありません。いわば、ボロ儲けという考えを排して、良いものを安く提供して、大量に売ることを通して利益を上げるという考えです。

 

3つめは同業者、卸先との関係ですが、一人勝ちみたいなことが可能であってもそういう道はあえて選びません。自己のやり方を貫きつつ、ぎりぎりのところでは同業者も守る。それが、結局自分のところを守ることにもなるのです。

 

4つめは時の対策とかか、景気の動向とかに左右されない一貫した職業姿勢です。これは言葉を換えていえば、自分の商売の依拠するところを庶民(普通の市民)におくということかもしれません。

山本一力は、このような職業姿勢の職業人を評して「凛として」とか「筋を通している」という言葉を使います。周囲からの批判、例えば家族から批判されても、頑固な位の職業態度を貫く人物を描きます。そしてそのような職業理念というか職業姿勢がロータリーのいう職業奉仕だと思うのです。 

 

 

3.山本一力とロータリー

山本一力という作家は 1948年生まれで私と同じ年です。父親と小さい頃別れて、母親の下で、 3人の子供が育てられた。小さい頃から貧乏だったというのも私に似ています。高知で生まれて育って東京へ出て行きます。そして、東京で新聞配達をしながら、学校に通うという生活をします。そして、その新聞配達をしているとき、クリスマスになると、プレゼントを用意していて、配達に行った山本少年に毎年くれるという家があったそうです。山本少年は当時貧しくて、家ではクリスマスプレゼントなど貰えなかったから、この配達先から貰ったプレゼントがとてもうれしかったようです。

 

ロータリーは分かちあいの心 

そしてその新聞配達の山本少年に毎年クリスマスプレゼントを用意していてくれた家が、ロータリアンだったそうです。山本一カはエッセイでこのエピソードを書いていますが、これを読んだとき、私は山本一力を何らかの形でうちのクラブでも紹介しなければならないと思いました。このことも今日お話しすることになったきっかけの 1つです。皆さんも、山本一力の小説のどれでもいいですから、一冊でも読んでいただき、ロータリーの職業奉仕をはじめとする口タリーヘの理解を深めていただければ幸いです。

 

■別表ー山本一力時代小説(文庫)一覧

 ( )内は主人公の職業(平成20年1月時点で刊行されているもの)


=文春=

あかね空(豆腐職人)

蒼龍(呉服商、酒問屋、外)

損料屋喜八郎始末控え(損料屋=庶民相手に鍋釜や小銭を貸す仕事)

草笛の音次郎(渡世人)

梅咲きぬ(料亭)

 

=新潮=

辰己八景(ろうそく問屋、鳶職、医師、畳職人、外)

いっぼん桜(口入屋=人材派遣業、棒手振=魚の担ぎ売り、外)

 

=祥伝社=

大川わたり(呉服屋手代)

深川駕龍(駕篭かき)

 

=集英社=

銭売り妻蔵(銭売り=金貨や銀貨を町民の間で使われる文銭に両替する仕事)

 

=講談社=

深川黄表紙掛取り帖(定斎売り=薬売り=厄介事始末請負人)

 

=ハルキ=

はぐれ牡丹(両替商)

 

=光文社=

だいこん(一膳飯屋)

 

片見冨士夫法律事務所

〒564-0053

大阪府吹田市江の木町2−32

フレアコート江坂503

TEL :06-6170-1597

FAX :  06-6170-1598

 

地下鉄御堂筋線

江坂駅下車徒歩3分

 

月〜金曜日

午前9時30分~午後5時30分

土・日及び夜間のご相談も可能です。お問合せください。

 

email;f.katami.l.o@gmail.com

 

お気軽にご相談ください